本日のカデンツァ

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ショパン:ノアンの地でかかれた7つのノクターン

ショパンが存命中に出版された作品にはOp.として番号が記され、作品番号のあるノクターンは全部で18曲ある。
ショパンがかの有名な女流作家ジョルジュ・サンドと過ごしたそのノアンはパリから南へ270kmのベリー地方にある。ノアンの地でショパンは7回の夏を過ごし、7つのノクターンをかいた。もちろんひと夏に1曲などという計画のもとでかかれたわけではない。(1839年にOp.37-2,1841年にOp.48-1,2,1843年にOp.55-1,2,そして1846年に最後のOp.62-1,2)
誰かに曲を頼まれたわけでもなく、予定された演奏会のために書かれたわけでもない。森の中の鳥のさえずり,雨や風の音,サンドの作る食事など毎日の日常的な暮らしの中にあるノアンの匂いが7つのノクターンを生んだ。たんなる恋愛ではなく,いつも家族的であり,常に人間的であったサンドの愛はいつもショパンの音楽そのものに寄り添ってきた。

1841年にかかれたノクターンOp.48-1(13番)は「楽聖なるショパン」という古い映画の中で、ショパンの臨終のシーンに流れている。が、しかし、決して
暗く悲しみに満ちた曲ではないように思う。普段、昼間に散歩する森も夜になれば、街頭ひとつなく暗く寂しい。そこに月が昇り、その唯一の光である月明かりが、木々を照らす。風が時折強く吹いて木々を揺らし、森の夜は静かに更けてゆく。心に深く刻まれる旋律は、闇夜を照らす月明りがひとすじの進むべき道を示してしてくれるように。この曲のLentoで始まる提示部は、浮かび上がるような旋律のなかに左手のバスのオクターブと和音の連続がそれを支える。左手のバスの意識はやがてPoco piu lentoの中間部の同主調へ展開し、コラール風の分散和音のなかに潜むメロディーに移っていく。静かに始まる心の奥にある自身のspiritを少しずつ高めながら、Doppio movimentoへ移行する。ここからのパッションは最初のメロディが倍速した状況のなかで再現されるが、ここに演奏の難しさを出さないように弾くのはなかなか至難である。旋律とバスと内声和音のバランスが重要である。そしてその精神性の高さは最後まで持続しなければならない。

最後のノクターンのOp.62-1(17番)はロ長調である。ショパンはロ長調こそピアノのポジションニングの練習にはふさわしい調であると弟子に述べている。ノクターンの3番も同じくロ長調である。これは最初のノクターンOp.9の3つの作品の一つであるがその方向性が全く違う。速度記号や強弱など細かい記載がある3番に対して17番にはAndanteとSostenutoの表示があるだけで強弱に関する記載はほとんどない。またこの曲は版によって楽譜の風景がずいぶんことなる。旋律が8分音符であったり、付点になったり,中間部の変イ長調への転調部では旋律まで多少異なっている。しかしサンドとの愛が終熄を迎え、生きる方向性までも見失いかけたショパンの精神の彷徨いから考えればどう弾くかはとるに足らない議論にも思える。そしてその方向性のない気持ちの揺れが、ときに定まらない調性のなかに現れている。
強く深いスピリットを感じさせるノクターン13番とコントロール不能な心の彷徨いを表現しているノクターン17番。その美しくあこがれをいだくような旋律を160年後の私たちのために残しておいてくれたわけではないだろうが,ショパンは決して裏切らない音楽の普遍性を教えてくれる。
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by aurorapiano | 2008-02-25 20:17 | ピアノ

音楽・四方山話


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